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東京都による大学「改革」の法的問題点
東京都立大学法学部教授・図書館長  人見 剛
2004.10.23
 
(法律時報76巻3号74頁〜79頁)
 

I はじめに

 本年二月一○日、東京都立の四大学*1を所管する東京都大学管理本部から、四大学の講師以上の教員に対し、「『首都大学東京』就任承諾にあたっての意思確認書の提出について」*2なる文書と、提出が求められる意思確認書が、返信用封筒と共に個人の自宅に郵送された。その意思確認書は、東京都知事石原慎太郎宛に、「私は、首都大学東京設置認可の上は、所属:○○○学部 の専任教員(現職相当)として平成一七年四月一日からの就任を承諾する意思を表明します。」という文面に当該教員が住所と氏名、捺印をして提出するフォーマットであり、提出の期限は二月一六日とされている。そして、これに関する説明書である前記文書の後半は、次のような内容である((1)〜(3)の数字は、以下の説明の便宜のために筆者が挿入したものである)。

 (1)「さて、都立法科大学院につきましては、専任教員として予定していた一部の教員が、昨年六月一日付けで就任承諾書を提出していたにもかかわらず、設置認可後に、退職願を提出してきたため、学生募集と入学試験を延期するという、まことに残念な事態が生じました。関係者の努力と迅速な対応により、なんとか平成一六年度開設が可能となりましたが、受験を予定していた皆さんに多大なる迷惑をかけることとなりました。
 (2) このため、文部科学省からは、設置認可の申請にあたっては、専任教員予定者から早期に確実な意思確認をとり、法科大学院のような事態を二度と招くことのないよう対応されたいとの強い意見がありました。そこで、本申請に必要な就任承諾書提出に先立って、今回、首都大学東京への就任の意思確認を緊急に行わざるを得なくなりました。時間的にも本調査は最終の意思確認とご理解いただき、提出いただいた意思確認書は四月三○日の本申請に向けての三月の運営委員会(大学設置審議会)に必要な資料として集約し、文部科学省に報告する予定(二月二○日頃)です。
 (3) 勤務条件の詳細がわからなければ、就任するか否か判断できないというご意見もあるでしょうが、既にご提示している、『基本的に現状の給与水準を維持する』『通常の教員としての能力を有し、着実に実績をあげていれば特に問題を起こさない限り再任が認められる』という骨格の案を前提に、これから理事長予定者、教学準備委員会座長、各大学の総長・学長等で構成する経営準備室において、勤務条件等の詳細を決定していく考えです。
 今後開学に向けて準備を進める上で、東京都といたしましては、都民をはじめとする将来の受験生の皆様の期待を裏切らない万全の措置を採らざるを得ませんので、事情をご賢察の上、ご協力賜りますようお願い致します。」

以下、この「意思確認書について」なる文書の記述を端緒に、東京都による大学「改革」の法的問題点の一端を紹介することにしたい。


II 大学「改革」の経緯と法学部四教授の辞職

 右文書の(1)において退職願を提出した法科大学院専任教員予定者というのは、筆者の同門の兄弟子にあたる行政法の担当教授と民法担当の教授二名と助教授一名の合計四名のことであるが、まず、彼らが、昨年一一月一九日から一二月九日にかけて個々に辞表を提出するに至った経緯の大要を説明しておかなければならない*3


1 現大学との協議を排した新大学の新構想づくり

 今回の都立の大学改革の直接の発端は、石原都知事が二○○○年に都立の四大学の統合を表明したことにあるといってよいが、以来昨年七月末までは、いろいろ軋轢はあり、そして学内には批判もありながらも、それなりに大学と設置者東京都は、話し合いを持ちながら進めてきたということができる*4。しかし、昨年八月一日に知事の記者会見で突如発表された新大学構想「都立の新しい大学の構想について」は、二○○一年三月の大学改革推進会議設置以来積み重ねてきたそれまでの構想(法人化と人文・法・経・理・工・保健科学の六学部への再編等)とその詳細設計を全面的に否定し、昨年五月に知事の指示で設置され、非公開で、そのメンバーも座長の岩手県立大学学長の西沢潤一氏以外は明らかにされなかった「新大学の教育研究に関する検討会」で検討されてきた結果を唐突に決定事項として発表したものであった。
 そして、この新構想の発表後の、その具体化の作業も、大学の公的機関(総長、評議会、教授会)の意思を排し、西沢氏他の学外者と個人としての学部長を加えた教学準備委員会を設置して新大学の詳細設計の手続が続けられることになった。右委員会設立の直前の八月二九日に行われた大学管理本部長発言には次のような一節がある。
 「強調しておきたい点は、あくまでも『大学の統合』や『新大学への移行』ではなく、四大学の廃止と新大学の設置を行うということである。四大学の廃止と新大学設置は、設置者権限であり、これから設置者責任の下で新大学の設計を行っていく。したがって、基本的に旧四大学は新大学を設計するうえでのひとつの資源として受け止めている。新大学の設計には、(1)基本構想に積極的に賛同し、かつ(2) 旧大学の資源に精通した方を任命したい。言い換えれば、旧大学の改組ではないことから、旧大学の調整によるものではなく、基本理念の枠の中でより良い大学を作るために積極的に協力してくれる人たちの手で新大学を設計していく」。
 かくして、都立大学の五学部の学部長・研究科長らは、「学内の資源を掌握している」個人として教学準備委員会の委員としての就任を求められ、詳細設計に加わるために、会議の内容を口外しないことに同意するといった誓約書まで書かせられたのである。こうした強圧的な手法はさらにエスカレートし、九月二五日、大学管理本部は、大学の意見を全く聴することなく、またも突如として教員配置案を一方的に策定し、新大学設立本部長宛の同意書の提出が、九月三○日までに一人一人の教員に求められたのであった。そこでは、同意する事柄が次のように記されていた。「提示された新大学における配置案に同意したうえで、新大学設立本部及び教学準備委員会の下で、新大学に関する今後の詳細設計に参加することに同意します。また、教学準備委員会が必要と認めた場合を除き、詳細設計の内容を口外しないことに同意します」。そして、その説明書きの後段には次のような記述がある。「今後は教員の皆様に提示した配置案に基づいて、各人の同意書をいただくとともに、文部科学省への事前相談及び入試概要公表に向けて、諸準備を進めていく予定である。改めて申し上げるが、今回の改革は、あくまでも四大学の廃止及び新大学の設置であり、現行にとらわれすぎない新しい大学の設計を進めるため、設置者の責任の下にトップダウンの概要設計を行っている。したがって、原則的に個人の希望等をヒアリングする等の措置は考えていない」。
 こうした、新構想に対する賛否の「踏み絵」を突きつけ、大学の詳細設計の内容の秘匿を強要する手法に対する学内の反発は強く、都立大学総長は、九月二九日に管理本部長宛に意見を提示して「憲法、教育基本法をはじめとするあらゆる教育法規の原理的趣旨に反する行為である」と断じ、さらに「新大学設立準備体制の速やかな再構築を求める」と題する声明*5を一○月七日に発表して、同意書提出要求の白紙撤回をもとめたのであった。そして、人文学部と理学部からは、結局一通の同意書も提出されていないようであるが、法学部からは少なくとも三通の同意書が提出されたらしいことは残念なことであった。  なお、昨年一二月から始まった、現大学との協議体制の再構築を求める四大学教員の署名運動の高揚*6の中、大学管理本部は、マスコミに対して、現大学の意向も聴きながら改革を進めていると説明し出しているようである。しかし、昨年八月一日以降、今回の大学「改革」は新大学への移行ではなく新設であるから、現大学の教員組織の意思を反映させる必要はないとしてきた姿勢は一貫していると言ってよい。八月一日の新学部構想(都市教養学部、都市環境学部、システムデザイン学部、保健福祉学部)と諸センター(基礎教育センターとエクステンションセンター)そして単位バンク制度*7、一○月三一日の一法人五大学方式'*8の導入、一一月一九日の任期制・年俸制の導入、いずれも都立大学との協議は一切なく、一方的に決定され、その後に大学には通知されてきただけである。
 かろうじて大学と協議していると言えそうなのが、学部長・学長を個人としてメンバーに加えて(ただし、都立大学総長は、当初から排除されている)構成される教学準備委員会において教学マターを審議している点である。しかし、これとても、審議対象が限定されている上に、当該委員会委員としての学部長はあくまでも個人としての資格での参加であるとされ、既存大学の教員組織の経験と英知を結集するという観点は全く欠落している。さらに、この委員会は、昨年八月以降本年二月までに五回開催されたのみで、そのうち一回は、「メール開催」と称する、会議が実際にあったのかさえ疑われる代物で、十分な審議は行われておらず、自由闊達な議論をするためと称して議事録さえ作成せず、結果として質疑討論の結果が次回の会議にほとんど生かされないという結果をも招いているようである。さらにこの委員会の審議事項である都市教養学部の教育課程設計、都市教養教育の教育内容設計、エクステンションセンターの実施体制に関する調査研究について、約三○○○万円の費用をかけて受験産業の一角にある河合塾に丸投げ委託するなどしており、都立の大学の知的資産をほとんど活用しないまま(そのことは右の教学準備委員会の組織体制、運営、開催頻度等に顕著に示されている)、多額の公金支出をしているのである。


2 石原都政の行政手法

 法学部四教授の辞表は、こうした事態が推移する中、大学管理本部主導の大学「改革」に対する抗議として提出されたのであった。なお、筆者も、昨年一一月には新大学・新法人には奉職しない意思を固め、本年一月五日には来年三月をもって都立大学を辞する旨の退職届を提出した。
 ところで、あろうことか、大学管理本部は、この四教授の辞任により法科大学院設置認可の基準を満たさないことになり、学生募集が一時停止することになった際、四教授に対する損害賠償責任の追及もありうるという考えを持っていたようである。筆者のみるところ、これは被害者と加害者をあべこべにする議論といわざるを得ない。四教授は、法科大学院設立に向け全国的に行われた激しい人材獲得競争の中で他大学からの誘いを断って、昨年七月までの新大学構想の下の都立法科大学院に参加することを決め、昨年六月一日付で、法科大学院への就任承諾書を提出したのであった。一方、大学管理本部は、昨年四月にそれまでの新大学構想を見限ることとし、昨年五月からメンバーさえ不詳の非公開の「新大学の教育研究に関する検討会」において新たな新大学構想の策定の作業を開始し、それを昨年八月一日に突如、既決のこととして発表しているのである。後に破棄するつもりの(そして現にそうなった)新大学構想であることを秘匿しつつ、それを前提に就任承諾書を取得し、事後にその前提を崩しておきながら、就任承諾書をたてにとって契約違反あるいは不法行為を難ずることなど許されてよいわけはない*9
 また、文部科学省は、法科大学院の設置認可前の一一月一一日頃、都立大学の法科大学専任教員予定者が退職するかもしれないという情報に基づいて、この点を管理本部に問い合わせをしたようであるが、管理本部は、法学部内における混乱を知りつつ、それを全く否定する回答をしたようである*10。こうした一連の大学管理本部の行政スタイルには、法人事業税に係る外形標準課税を導入して大手銀行から訴訟が提起され、最終的に和解で決着した東京都銀行税条例事件の時の手法と非常に共通するものが垣間見えよう。右訴訟の東京地裁判決平成一四年三月二六日(判時一七八七号四二頁)では、当事者間に争いの無い事実として、次のような事実が認定されている。
 「平成一一年夏ないし秋頃、被告東京都知事及び極く少数の被告東京都の職員が秘密裏に東京都独自の銀行税構想を検討し始めた。・・・同年一一月以降複数回、全国銀行協会に対して匿名の投書が送付されてきた。それらの投書は、東京都が銀行業のみを対象とする新税導入の準備を進めている事実を告げ、『情報は一切公開する予定はなく、とにかく銀行業界に検討の余地や反論の時間を与えないようにする極めて非民主主義的な手法が採られようとしている』、『あくまでも極秘裏に作業が進められている。来年二月の都議会定例会に条例が提出されるが、その公表は直前を予定しており、中身を十分明らかにすることなく可決成立させることを意図している。』『タイムリミットはおそらく年内いっぱいと思われる。』と、警告を発する内容であった。・・・平成一二年一月初め、自治省が被告東京都の主税局税制課に銀行新税構想の有無を電話で問い合わせたところ、被告東京都の税制課は全面的にその構想を否定した。・・・全国銀行協会は、同月一七日、被告東京都の主税局を訪問して税制部長らと面談し、・・・銀行業だけを対象とする新税構想の有無を問い質した。これに対し、税制部長は、・・・銀行業に賦課する新税構想を全面的に否定した。・・・ところが、被告東京都知事は、同年二月七日、臨時記者会見を開き、法人事業税について、大手金融機関を対象とする外形標準課税を導入する方針を発表した。その際、被告東京都知事は、『事前に情報が漏れると、キーキーいう人もでるだろうし、銀行の反発もあるだろうから』、『実はここにいる柿沼局長も知らずにやってきたことです。』『今日まで全くその秘密裏にことを行ってきました。』との趣旨の発言をし、さらに、この日の発表につき『いってみりゃ、ヘッドスライディングのホームスチールみたいなもんだな。』と発言した。・・・なお、被告東京都の主税局税制部長は、同年二月七日、全国銀行協会に電話をし、銀行業等に対して賦課する外形標準課税導入構想を事前に知っていたこと、及びこの構想を他言しないよう止められていたことを認めた」。


III 文部科学省の指導と意思確認書

 意思確認書に係る前記文書の(2)の部分によれば、今回の意思確認書の集約は、文部科学省の指導によるものであるということになっている。しかし、本当に文部科学省はそのような早期の意思確認の指導をしたのであろうか。それが疑わしく思えるのは、まず法科大学院設置の際のトラブルが引き合いに出され、「そのような事態を二度と招くことのないように対応されたい」と述べられていることである。法科大学院設置の際の問題は、そもそも正式の就任承諾書が提出された上で生じたのであって、そうした意思確認が早期になされなかったが故に生じたものではない。むしろ八月一日事変以降に新しい新大学構想が具体化してきた時点で就任の意思の再確認がなされなかったことによって生じた事態とも言えるのである。さらに言えば、法科大学院のような事態を二度と招かないためには、なにより大学との協議を拒絶した新大学づくりを断念し、緊密な協議体制を作って現場の教員の意見を糾合した大学の制度設計をすることが何より有効なのであって、文部科学省もおそらくそうした指導をしたのではないかと推測されるのである。それを、全く逆手にとって、文部科学省の意向であるとして、しかも「最終の意思確認」、すなわち今回限りの後のない意思の表明を迫るという挙に出ているのが、今回の意思確認書であるといえるであろう。
 なお、文部科学省の意思を、東京都大学管理本部が歪めて伝えることは、今回が初めてのことではない。昨年一一月の法科大学院の設置認可において、都立大学のそれについては、三つの留意事項((1)法律実務科目の充実等の理論と実務の架橋に留意した教育課程編成に努力すること。(2)4科目について教員を補充すること。(3)採用予定の派遣教員について計画通り採用すること。)が付いたのであるが、直前に認可される旨の連絡が文部科学省からあった際に、大学管理本部は、それを法学部に伝達せず、あろうことか全く別の、学部における法律学科・政治学科の学生比のアンバランスの是正が指摘されたと伝えていたのである。法学部教授会、全学の部長会でも一度はこうした誤った情報が伝えられ、その後修正されている。
 これに関連して、大学管理本部によるこうした情報操作のもう一例として、都議会に対する都立大学の現状を歪めた説明もここで言及しておきたい。これは、都立大学の現状がいかに問題あるもので、それを管理本部が改革すべく努力しているということを都議会議員に印象づけることを狙ったものであろうと推測される。

 昨年一一月の都議会文教委員会に提出された「構想策定過程で聴取した主な意見等と調査方法」なる文書には、在学生の都立大学に関する意見が一○件登載されており、それは、同年七月に都立大学事務局が実施した学生アンケートを元に作成されたものであるが、そこでは都立大学の現状認識にかかわる実に恣意的な情報操作がなされていたことが明らかになっている。例えば、元の資料の中で「あなたの大学生活は楽しいか」という設問に対する回答は、「楽しい」が約五○%、「普通」が約四○%、「楽しくない」が約一 ○%の比率であるにもかかわらず、議会に提出された資料のうちその質問に対する回答として抽出された四件は、全て「楽しくない」とした回答から採られていた。しかもアンケートでは「期待通りの授業でなかった時」と書いてあるものが、「期待通りの授業がない」と書き換えられて議会に提出されているのである。また、「楽しくない」という回答の中には、「大学改革による都立大の偏差値低下の心配。全寮制に伴う校風変化と人気凋落の心配。こうした将来の心配が無ければ大学生活は格段に楽しくなるだろう」というものもあったが、これが議会提出資料に載せられていなかったことは言うまでもない。


IV 任期制・年俸制の包括的導入

 公立大学法人化後の新大学及び平成二二年まで存続するとされる現大学の教職員は、地方公務員ではなくなくなり*11、意思確認書にかかわる文書の(3)の部分に示されているように、新大学においては、任期制が導入されることになっている。しかも現在までの大学管理本部案によれば、それは包括的なもので、大学教員任期法と労働基準法一四条の有期雇用契約を併用すれば大学の全教員に五年間の任期制が導入できると考えられているようであり、かつ年俸制(但し、退職金制度は維持される)とも結合されている。
 しかし、まず、大学教員任期法に基づく任期制と労働基準法一四条の有期雇用契約を併用できるかどうかは疑わしいし(前者は後者の特別法とも解されるのであるから、大学教員には専ら前者のみが適用されるという解釈は十分に成り立つ)、大学教員任期法は、(1) 先端的・学際的・総合的な教育研究等の教育研究分野・方法の特性から多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織の職、(2)自立的に研究する助手の職、(3) 大学が策定・参画する特定計画に基づく有期の教育研究の職の三つの場合に、任期制の導入を限定しているのである。さらに、公立大学の教職員の雇用関係が原則として新法人に承継され、その雇用が保障される旨を定めている地方独立行政法人法五九条二項の適用が、新大学にあることに鑑みれば、労働条件の変更には、おのずと限界があると考えられる。同条項は、単に雇用関係の形式的な継続のみならず、基本的な雇用条件・勤務条件の承継をも含む実質的な雇用保障を意味するはずである。むろん、同法五七条は、法人の業務の実績や社会一般の情勢に適合したものとして定められる支給基準に基づき、個別の職員の勤務成績を考慮して支払われることになる旨を定めており、これに基づく給与体系の変更は、同法の排除するところではないが、新旧大学の労働条件が変更される場合は、旧大学の労働条件の承継を前提に、労働契約、就業規則、労働協約等による労働条件変更の手続をとる必要があり、これについては、一連の労働条件変更法理が適用されることになるはずである。
 さらに本年一月二七日の都立大学評議会の「見解と要請」は、こうした任期制が学生に対する教育責任に悪影響を与えることも指摘している。一つには、学部四年間、大学院五年間さらに文系では一般に相当長期にわたる課程博士論文までの一貫した指導体制が失われる恐れであり、もう一つに、研究員から准教授、教授、主任教授の階層構造の中で任期ごとの業績評価に絡んで「たこつぼ」的上下関係が強化される恐れがあり、その結果、教員が「上位にあるものの評価に怯え、大学内で一個の独立した人格として振る舞うことのできない」存在となり、「学術的真理のみを奉じ対等の人格として学生を導くことを本務とする大学教員の体をなさない」という危惧である。


V 経営と教学の分離の貫徹

 最後に、意思確認書に係る右文書には現れていない、都立の大学の法人化の法律問題である経営と教学の分離の問題に言及しておこう*12
 国立大学においては、法人の長は大学の長である学長とされ(国立大学法人法一○条一項)、さらに経営部門(経営協議会)の長と教学部門(教育研究評議会)の長も、いずれも学長とされ(同法二○条五項、二一条四項)、経営と教学の一体性が確保されている。これに対し、公立大学法人においては、この法人の長と学長の分離型が、定款で定めることにより認められている(地方独立行政法人法七一条但し書)。しかし、これはあくまでも例外なのであって、「公立大学法人の理事長は、当該公立大学法人が設置する大学の学長となるものとする」(同法七一条)のが原則であることは確認されなければならない。そして、東京都の公立大学法人と新大学は、この分離型をとることになっているのであるが、これは、地方独立行政法人法が成立する以前からの都立の新大学と法人化の当初からの路線であって、かかる分離型が同法に導入されたことの背景には、東京都の強い意向があったとも推測されているところである。
 ところで、新法人・大学の理事長と学長も設置者都によって大学の意思とは全く無関係に一方的に選任されることになっている。理事長予定者には、石原都知事の大学時代の友人である郵船航空サービス相談役の高橋宏氏が決定しており、学長予定者には、新聞報道によれば、現在の教学準備委員会の座長でもある西沢潤一氏に決定しているとのことである。ただし、これには、地方独立行政法人法上の根拠があり、同法の合憲性を前提とすれば、かかる措置は違法とはいえない。すなわち、学長を兼ねない理事長は、そもそも公立大学法人の申出に基づいて設立団体の長が行う(法七一条二項)必要はなく、当該法人が行う事務・事業に関して高度な知識・経験を有する者か、当該事務・事業を適正かつ効率的に運営することができる者のうちから設立団体の長が任命するのである(同法一四条一項)。また理事長と別に学長を任命する大学の学長は、原則として大学の選考機関の選考に基づき理事長が行うのであるが(同法七一条五項)、大学の設置後最初の任命については、かかる選考機関の選考に基づくことを要せず、定款の定めるところにより、理事長が任命することになっているのである(同法七二条二項)。


*1 都立の大学には、(1)東京都立大学、(2)都立科学技術大学、(3)都立保健科学大学、(4)都立短期大学の4大学があり、それぞれ、東京都八王子市、日野市、荒川区、昭島市と中央区に位置している。学生数は、それぞれ、(1)学部生五一○九名、大学院生一五八六名、合計六六九五名、(2)学部生八三三名、大学院生三一○ 名、合計一一四三名、(3)学部生八○七名、大学院(修士)生七一名、合計八七八名、(4)本科生一○九○名、専攻科生九名、合計一○九九名となっている。教員数は、(1)教授二一四名、助教授一九三名、講師一四名、助手一七六名、合計五九七名、(2)教授三二名、助教授一九名、講師一名、助手六名、合計五八名、(3)教授二七名、助教授二一名、講師一八名、助手二二名、合計八八名、(4)教授三二名、助教授二一名、講師六名、助手四名、合計六三名、総計約八○○名となっている。東京都大学管理本部管理部総務課『平成一五年ポケットデータ』二○○三年。
*2 首都大学東京というのは、都立四大学を統合し(短期大学は廃止)、地方独立行政法人法に基づく公立大学法人の下の新たな大学として二○○五年四月発足を目指して準備が進行中の大学である。なお、首都大学東京なる新大学の名称は、都民公募を踏まえて本年二月六日に決定・公表されたものであるが、報道によれば、都民からの応募で最も多かったのは「都立大学」であったが、これは内部資料で「ふさわしくない名称」とされていたそうである。サンデー毎日二○○四年二月一五日号一四○頁。
*3 詳しくは、米津孝司「東京都立大学『改革』の問題点」法学セミナー二○○四年二月号。
*4 これについては、参照、東京都立大学・短期大学教職員組合編『「大学改革」問題報告書––大学の未来を憂う』二○○二年一○月。
*5 世界二○○三年一二月号一二六頁以下。
*6 本年二月三日までに、署名者数は、四大学中三大学で過半数を超えて七九七名中四五一名の五七%に達し、都立大学では全教員五八九名中三八一名の六五%の署名率となったということである。とりわけ人文・経済・理・工の四学部の教員の過半数、法学部でも法律学科教員の過半数の署名が集まったという。
*7 単位バンク制とは、「『選択』と『評価』による新しい教育システム」と位置づけられ、他大学や海外の大学の科目、学外における経験・学修等について卒業所要単位として認めるというものであり、現在他大学等での修得が認められている六○単位を越える認定が想定されているものである。そして、単位バンク実施のため、新大学の教育課程の中に「必修科目」は設定しないとされている。
*8 一法人五大学方式とは、現都立の四大学の学生・院生の教育責任を全うするため、平成二二年まで公立大学法人の下で現四大学を存続させ、その間五大学が併存することを意味する。
*9 なお、昨年八月一日の事変から四教授らが辞表を提出するまで三ヶ月以上が経過しているが、事態の実態を把握し、大学の反発に対する反応や教学準備委員会の審議状況その他の推移を見定め、辞職という決断をする期間として、決して長い期間ではない。
*10 参照、昨年一二月一二日の都議会文教委員会の審議。
*11 国の独立行政法人と同じく、地方独立行政法人にも、その役員・職員に公務員(地方公務員)の身分を与える「特定地方独立行政法人」(地方独立行政法人法二条二項)と役員・職員を非公務員とする「一般地方独立行政法人」(法五五条)とがあるが、法二条二項括弧書きにおいて「第二一条第二号に掲げる業務(=「大学の設置及び管理を行うこと」)を行うものを除く」とされ、公立大学法人は、特定地方独立法人の範囲から一般的に除かれている。
*12 参照、人見剛「公立大学と独立行政法人」自治総研二六六号(二○○○年一二月号)一頁以下、同 「公立大学における法人化問題」法の科学三二号一六一頁以下。
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