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地方独立行政法人法と公立大学法人化––東京都の大学「改革」を中心に––
東京都立大学法学部教授 人見 剛
2004.9.15
 
(労働法律旬報1582号4〜10頁)【掲載特別許可取得済】
 

はじめに

 二○○三年七月、地方独立行政法人法(以下、地独法人法と呼ぶ)が成立し、同法二一条において地方独立行政法人が行うことのできる業務が列挙されているが、その二号は、「大学の設置及び管理を行うこと」と定めている*1。併せて学校教育法二条も改正され、学校を設置できるものとして、「地方公共団体(地方独立行政法人法(平成一五年法律第一一八号)第六八条に規定する公立大学法人を含む。次項において同じ。)」と規定された。これらにより、公立大学のいわゆる法人化の途が開かれることとなった訳である。なお、同時期に成立した国立大学法人法(以下、国大法人法と呼ぶ)に基づいて、本年四月一日より、八九の国立大学法人と四つの大学共同利用機関法人が設立されている*2
 大学という組織が、一般の行政組織とは異質のものであること(憲法二三条が保障する「学問の自由」から導かれる大学の自治、教育基本法一○条が保障する教育の自主性と国民直接責任性など)に鑑みて、国立大学について国の独立行政法人通則法とは別に国立大学法人法が制定されたように、公立大学の法人化にあたっても、「公立大学法人法」のような別立ての法律が制定されることが望ましかったと考えられる。しかし、結果として、公立大学法人は、地方独立行政法人法の中において、その法人の一形態として定められることになり、ただ同法の六八条から八○条に「第七章 公立大学法人に関する特例」の規定が設けられるにとどまったのである。
 以下では、この地独法人法の公立大学に関する特例規定を中心に公立大学法人と国立大学法人の異同を紹介すると共に*3、東京都立大学を含む都立の四大学*4を統合して設立される予定である新大学である「首都大学東京」を設置することになっている東京都の公立大学法人の(現在進行中の)制度設計の問題点を検討することにしたい。


I 公立大学法人の概要


(1)国立大学法人との主な共通点

 まず、教職員の身分については、国の独立行政法人と同じく、地方独立行政法人にも、その役職員に公務員(地方公務員)の身分を与える「特定地方独立行政法人」(地独法人法二条二項)と役員・職員を非公務員とする「一般地方独立行政法人」(同法五五条)とがある。ただし、同法二条二項括弧書きにおいて「第二一条第二号に掲げる業務(=「大学の設置及び管理を行うこと」)を行うものを除く」とされ、公立大学法人は、特定地方独立法人の範囲から一般的に除かれ、結果として国立大学法人と同じく、その役職員は全て非公務員となっている。
 次に、学長(理事長)その他の役員(副理事長・理事)は、「人格が高潔で、学識が優れ、かつ、大学における教育研究活動を適切かつ効果的に運営することができる能力を有する者のうちから」選考・任命されねばならず(地独法人法七一条六項、七二条三項。参照、国大法人法一二条七項、一三条一項)、学長(理事長)、教員の任免及び学長の任期については、大学の意向を尊重する手続が導入されている点(地独法人法七一条、七三〜七五条)も国立大学法人と共通する(国大法人法一二条、一五条、一七条)。
 独任制の長によって主導される一般の独立行政法人(独立行政法人通則法一八条以下、地独法人法一二条以下)と異なり、合議制の審議機関を必置とすることも両法人に共通する点であり、公立大学法人においては、経営に関する重要事項を審議する経営審議機関と教育研究に関する重要事項を審議する教育研究審議機関が設置される(地独法人法七七条)。なお、国立大学法人においては、役員会、経営協議会そして教育研究評議会の三つの合議制機関が設けられる(国大法人法一一条二項、二○ 条、二一条)。
 さらに、広い意味での独立行政法人制度に共通する中期目標・中期計画・年度計画・事後評価のスキームも公立大学のそれと国立大学のそれはほぼ共通である。中期目標については、その期間が六年間と長く設定され(一般の独立行政法人は三〜五年。独立行政法人通則法二九条、地独法人法二五条)、目標に定められるべき事項(法二五条二項)には、特に「教育及び研究並びに組織及び運営の状況について自ら行う点検及び評価並びに当該状況に係る情報の提供に関する事項」も加えられ、さらにそれを定めるに当たっては、あらかじめ法人の意見も聴取し、その意見に配慮しなければならない(地独法人法七八条)。その目標達成を評価委員会が評価を行うに当たっては、認証評価機関(国が認証する第三者評価機関)の評価を踏まえなければならない(地独法人法七九条)。なお、国立大学法人においては、国立大学法人評価委員会の評価を受け(国大法人法九条)、その評価は、認証評価機関である大学評価・学位授与機構の教育研究の状況の評価の結果を尊重して行われなければならないとされているが(国大法人法三五条によって読み替え準用される独立行政法人通則法三五条)、公立大学については、設立団体ごとに執行機関の附属機関として、条例に基づき地方独立行政法人評価委員会が置かれ、公立大学法人の業務の実績に関する評価等を行う(地独法人法一一条)。
 法人の財務運営に係わる、設立団体による運営費交付金の交付(地独法人法四二条)や企業会計原則の採用と財務諸表の公開(地独法人法三三条以下)も国立大学法人と共通である。
 最後に、地独法人法三条三項は、「この法律の運用に当たっては、地方独立行政法人の業務運営における自主性は、十分配慮されなければならない」と定めているが、同法六九条は、これに加えて、「設立団体は、公立大学法人に係るこの法律の規定に基づく事務を行うに当たっては、公立大学法人が設置する大学における教育研究の特性に常に配慮しなければならない」と定めている。学問の自由、大学の自治等の教育研究機関としての大学の特性に対する恒常的な配慮義務を公立大学法人設立団体たる地方公共団体に特に課したものであり、国大法人法三条にも同様の定めがある。


(2)国立大学法人との主な相違点

 まず、地方独立行政法人制度においては、法人の設立は、地方自治体の任意である。従って、国立大学と異なり、公立大学については、その全面的な法人化は意図されておらず、設置者自治体による従前の直営形態と法人化の選択の自由が認められている(先に引用した学校教育法二条を参照)。現在、秋田県の国際教養大学が法人化されており、来年度に法人化を予定しているのは、岩手県、東京都、大阪府、長崎県、横浜市、北九州市の設置する大学であるといわれている。
 次に、国立大学法人は、法律により直接設立されるのに対して、公立大学法人はその定款の認可によって設立される*5。認可権者は、都道府県及び指定都市(都道府県・指定都市の加入する一部事務組合又は広域連合を含む)が単独で、あるいは都道府県・指定都市とそれ以外の地方公共団体が共同で設立しようとする場合にあっては総務大臣及び文部科学大臣であり、その他の場合にあっては都道府県知事である(地独法人法七条、八○、九五条)。したがって、公立大学の法人化は、行政法学上のテーマとしては、地方自治とりわけ国(都道府県)による法人設立自治体に対する関与(地方自治法二四五条一号ホ)の問題ともなり、「その目的を達成するために必要な最小限度のものとするとともに、普通地方公共団体の自主性及び自立性に配慮しなければならない」(地方自治法二四五条の三)ことになる。かくして、東京都の大学「改革」にみられるように、大学の自治(設置者自治体による大学への介入の抑止)と地方自治(国による設置者自治体に対する関与の抑制)の緊張関係という困難な課題も提起されるのである*6
 さらに、国立大学については、一法人が一大学を設置する方式で設立されているが、公立大学の場合には、一の法人が複数の大学を設置することもできる(同法七一条以下)とされている*7。また、複数の地方自治体が一の法人を設立し大学を設置することもあり(設立団体が二以上である場合の特例については、地独法人法九二条を参照)*8、自治体、法人、大学の関係が複雑になりうる構造となっている。
 第四に、国立大学法人においては、理事長はおかれず、学長が法人を代表し、その業務を総理することとされているが(国大法人法一○条、一一条)、公立大学法人の場合は、理事長が同時に大学の学長となることが原則とされるものの、例外的に定款で定めるところにより、理事長と別に学長が任命されることも認められる(地独法人法七一条一項)。その場合、学長は法人の副理事長となる(地独法人法七一条七項)。
 第五に、既に述べたように、経営と教学の分離をした上で両者を束ねる合議制の機関として役員会が国立大学法人には設けられているが、公立大学法人法にはそのような制度が定められていない。
 以上のような制度的相違点のうち、特に最後の三点は、法人化された公立大学において経営と教学の分離の強化ひいては教学の経営への従属をもたらす危険をはらむ点である。そして、そうした危惧が現実化しているのが、東京都立の大学の法人化であると考えられる。以下では、そうした都立の大学の法人化の問題点の要点を論ずることにしたい。


II 都立の大学の法人化の問題点


(1)一法人五大学方式の採用

 公立大学が法人化された場合は、法制度的には、地方自治体ではなく、地方自治体が設立した公立大学法人が大学を設置することになる。とはいっても、法人設立者自治体と大学の間が無関係になるわけではもちろんなく、「大学の設置管理を目的とする大学法人を設立する者」としての地方自治体の公立大学に対する実質的設置者責任については、本質的な変化はないと考えられる。とりわけ、一法人一大学の形をとる国立大学の場合には、法人と大学の区別は多分に観念的なものにとどまることになり、あえて法人が大学を設置していると観念するまでもなく、大学自体が法人化したと見ることも十分に可能であろう。
 しかし、公立大学の場合には、先にも述べたように、複数の地方自治体が一の法人を設立し大学を設置することもあり、また一の法人が複数の大学を設置することもできるなど、自治体、法人、大学の三者の関係が複雑になりうる。さらに、今回の東京都の大学改革は、法人化にあわせて、既存の四大学を新しい首都大学東京に統合再編することも含んでいるので、問題は複雑になる。そのため、現在の計画では、いわゆる一法人五大学方式、すなわち現都立の四大学の学生・院生の教育責任を全うするため、平成二二年まで公立大学法人の下で現四大学を存続させ、その間新大学とあわせて五大学を併存させることになっている。ここでは、法人と大学の区別が意識されざるを得ないのである。
 なお、現在検討中の新法人の定款案においては、東京都の設立する公立大学法人の名称が「公立大学法人首都大学東京」であるとされている。しかし、前述のように、当該法人は、新大学である首都大学東京の他、現在東京都が設置している都立大学他三大学の設置・管理をも行うことになっているのであり、適切な名称とは言えないであろう。国立大学法人の場合、一法人一大学の方式をとっているからこそ、法人の名称と大学の名称が一致しているのである。


(2)経営と教学の分離の強化と教学の経営への従属

 さらに、前述のように、地独法人法七一条は、学長=理事長一体型が原則であるにもかかわらず、例外的に「分離型」を採用することができるとしているため、それが採用された場合にも、法人組織と大学組織の区別という問題が顕在化することになるものと思われる。
 国立大学においては、法人の長は大学の長である学長とされ(国大法人法一○条一項)、さらに経営部門(経営協議会)の長と教学部門(教育研究評議会)の長も、いずれも学長とされ(同法二○条五項、二一条四項)、経営と教学の一体性が確保されている。これに対し、公立大学法人においては、この法人の長と学長の分離型が、定款で定めることにより認められている(地独法人法七一条一項但し書)。そして、東京都の公立大学法人は、この分離型をとる予定になっているのであるが、これは、地独法人法が成立する以前からの都立の新大学と法人化の当初からの路線であって、かかる分離型が同法に導入されたことの背景には、東京都の強い意向があったと推測されるところである。
 ところで、国立大学法人においては、経営マターを審議する経営協議会と教学マターを審議する教育研究評議会の他に、法人・大学の基本的重要事項を審議する役員会が設けられている(国大法人法一一条二項)。国立大学のように学長と理事長の双頭制を採らず学長一元制の体制においてすら、そうした合議機関を設置していることに鑑みると、理事長・経営審議会と学長・教育研究審議会が権限を分掌して併存する体制の下では、そうした両部門の調整機関が是非とも必要であると考えられる。こうした機関の設置構想が、現在の東京都の法人化計画に全く見られないのは遺憾である。
 さらに、独立行政法人化に伴う非公務員化によって教育公務員特例法が適用除外になり、そのことから教授会の教員人事権を否定することが計画されているようである。首都大学東京の学則案からは、教員の人事に関する事項が削除され、別に人事計画の検討や採用選考・再任審査手続の審査等を所管する人事委員会(その主宰者は事務局長)とその下に教員の採用選考を行う教員選考委員会(部局長が主宰者で学内委員と学外委員が構成員となる)が置かれることになっているのである。
 しかし、教授会の人事権が憲法二三条の保障する大学の自治の重要な一内容であることは定説であろう。また、教授会は、地独法人法に基づく法人の組織ではなく、学校教育法に基づく大学の組織であるが、大学の運営に関する事項であれば、学校教育法五九条一項に基づいて「重要な事項を審議」しなければならないはずであり、教員人事はそうした重要事項であろう。仮に教授会の人事権を完全に否定すれば、地独法人法六九条「設立団体は、公立大学法人に係るこの法律の規定に基づく事務を行うに当たっては、公立大学法人が設置する大学における教育研究の特性に常に配慮しなければならない」や、同法の成立に当たっての衆参両院の附帯決議「憲法が保障する学問の自由と大学の自治を侵すことがないよう、大学の自主性・自律性が最大限発揮しうる仕組みとすること」の趣旨に反することになるし、私立大学にあっても教育公務員特例法の趣旨が妥当するとする裁判例(八代学院大学事件=神戸地判昭和五四年一二月二五日戦後日本教育判例体系第三巻四○七頁)及び多くの有力私立大学の実務慣行とも矛盾する。
 さらに、経営セクターのメンバーであるはずの事務局長は、当初は一理事であったのに、最近の資料では法人の副理事長をも兼ねることになっており、教員人事を担当する人事委員会の長も務める事務局長の権限が、学長(副理事長)をはるかに凌駕することになりかねない。経営セクターの長が法人の理事長を務めることに鑑みて、明らかに経営主導の大学運営になる構造といえるであろう。


(3)設置者主導のトップダウン

 地独法人法によれば、学長を兼ねない理事長は、そもそも公立大学法人の申出に基づいて設立団体の長が行う(法七一条二項)必要はなく、当該法人が行う事務・事業に関して高度な知識・経験を有する者か、当該事務・事業を適正かつ効率的に運営することができる者のうちから設立団体の長が任命するのであり(同法一四条一項)、理事長と別に学長を任命する大学の学長は、原則として大学の選考機関の選考に基づき理事長が行うのであるが(同法七一条五項)、大学の設置後最初の任命については、かかる選考機関の選考に基づくことを要せず、定款の定めるところにより、理事長が任命することになっている(同法七二条二項)。
 かくして、東京都においては、新法人・新大学の理事長と学長も設置者都によって大学の意思とは全く無関係に一方的に選任されることになっている。理事長予定者には、石原都知事の大学時代の友人である郵船航空サービス相談役の高橋宏氏が決定しており、学長予定者には、岩手県立大学学長で公立大学協会会長でもある西澤潤一氏に決定している。しかし、公立大学協会が、平成一五年一○月二日の「公立大学法人化に関する公立大学協会見解」において、次のような見解を発表していることは注意しておいてよい。すなわち、「国による適切な点検が求められ」る事項の一つとして、公立大学法人設立後最初の学長の任命問題が挙げられ、それについては「定款の定めるところにより、首長ないし理事長が任命してよいという規定になっています。しかし、これは大学側の意向を斟酌せず、一方的な人事が許されるという趣旨ではありません。既存の大学が法人に移行する場合には、その大学と理事者側が充分に議論して定款を決めることになります。換言すれば『大学の特性』への配慮規程を前提にして定款を作成し、最初の学長の任命に際しても、大学の意向が尊重されなければなりません。」公立大学協会の会長自らが、東京都の新大学の学長就任にあたって範を垂れることを是非期待したい*9
 同様の問題は、地独法人法上の機関ではないが、新大学の学部長人事の指名にもみられる(但し、同法七七条四項によれば、学部長は、教育研究審議機関の必須メンバーである)。新大学である首都大学東京は、全くの新設大学ではなく、既存の四大学の教員・施設を利用して、いわゆる改組転換方式で認可されるものであるから、新大学の学部長の選出にあたっても既存学部の教員の意思を反映させる手続が不可欠であったはずである。しかし、新学部長予定者の選出は、全く教員の全く関与しないところで設置者自治体から一方的に決定・通知されてきたのであった。
 さらに言えば、都の新法人の定款案によれば、法人の設置する既存の四大学の学長も、「知事の指名に基づき、理事長が任命する」とされている。既に学長選考のルールを持って運用してきている既存大学の学長を先にみたような新大学の学長と同一の方式で選任・任命することも大学の自治に鑑みて問題視されなければならない。ちなみに、国大法人法では、その附則二条において、既存大学の学長をそのまま法人の学長とすることとし、また既存大学の学長の任期が法人化の前日で終了するときは、当該大学の選考会議において選考した者を法人成立の日に学長として任命するとされているのである。


III 都立の大学の法人化・新大学設立の過程の問題点

 昨年八月以来の都立の大学の改革のプロセスの異常さは、すでに多くのマスコミ報道や時論論文*10の刊行によって知られるところになっていよう。筆者も、本年三月に一論を発表している*11。ここでは、そこで触れられなかった、その後のいくつかの事柄を述べておく。


(1)都立大学の研究費配分における差別と職権濫用

 都立大学の本年度の研究費予算について、東京都は、それが新大学の予算でないにもかかわらず、新大学の理念に適合した研究に重点的に配分する傾斜的配分経費として四割強を留保し、さらにその研究費配分には「新大学に就任を予定していない教員は応募することができない」とした。昨年夏以降の大学「改革」の在り方に反対し、新大学への就任承諾書を提出しなかった教員は、たとえ今年度は都立大学の教員であっても大学研究費の四割に及ぶ大幅な研究ファンドにアプライすらできないとしたのである。
 これだけでも驚くべき自治介入であるが、その後、都立の大学の教職員組合の争議行為をめぐる教員処分問題について、都立大学評議会が三名の懲戒処分対象者のうち、一名について法定処分を下さない旨の決定をしたところ、東京都の大学管理本部は、右決定の再審査をしなければ先の傾斜的配分経費の執行を差し止めざるをえないと大学に通告をしてきたのである。常軌を逸した職権濫用で、この件を知ったときは我が耳を疑ったが、紛れもなく事実であったそうである。ただその後、評議会がかかる恐喝に屈することがなく、あまりの逸脱行為であるだけに管理本部も無理を悟ったのか、研究費の執行が行われることになった。


(2)新大学の教員採用人事

 新大学である首都大学東京に新たに採用される教員の人事が、この間公募にもとづいて行われてきた。この人事は、現大学の人事ではないという理由で現大学教授会の正式の審査を経ることなしに採用が決定されている。
 一方、新大学の設置認可申請は、現大学の職員組織・施設・設備等を基に設立されることから、教員の個別的な教育研究業績審査を省略するいわゆる改組転換の手続(大学の設置等の認可の申請手続等に関する規則1条4項)にもとづいて行われている。このように新大学の教員の業績審査が省略できる根拠は、認可済みの現大学の教授会の業績審査をパスした教員が新大学の教員となるからであろう。されば、先に述べた新大学人事の手続によって採用された教員については、新大学の認可申請の審査にあたって別途個別の業績審査が行われなければならないはずである。さもなければ、文部科学省の認可申請審査の手続に重大な瑕疵があるということになろう。


(3)新大学の学長予定者の発言の矛盾

 本年三月九日、学長予定者である西澤潤一氏は、当時の東京都大学管理本部長と連名の文書において、「今後の改革の進め方」について、次のように述べている。「第一回都議会定例会での知事の施政方針のとおり、知事にはまったく新しい大学として『首都大学東京』を一七年度に断固として開学する強い思いがある。
改革の本旨に従い、引き続き教学準備委員会を中心に検討・準備を進める。改革に積極的に取り組む先生方とともに、『首都大学東京』を創る。改革である以上、現大学との対話、協議に基づく妥協はありえない。『首都大学東京』は、東京都がそこに学ぶ学生や東京で活躍するさまざまな人々のために設置するものであり、教員のためではないことを再確認して欲しい」。
 しかし、公立大学協会会長として西澤氏は、先の「公立大学法人化に関する公立大学協会見解」では、「設置自治体に対する要請」として次のように述べている。「設置自治体が法人化を選択する場合、公立大学と十分な協議を行い、新たな協力関係を築いていくことを要請します。設置自治体が法人化を選択した場合には、教育研究の特性及びこの特性のもっとも重要な要素である自主性に常に配慮しつつ、大学側と十分に協議しながら双方の協働作業として進めていくという姿勢が何よりも必要です」と。この公大協見解と先の連名文書との間には抜きがたい矛盾があるのであるから、学長予定者として関係者に明確な説明をするべきであろう。
 また、西澤氏は、首都大学東京の学生募集用のパンフレットに寄せたメッセージにおいて、「大体日本の思潮は相手の理解に基づいています。決して余分に時間をかけることを自慢するようであってはならないのですが、相互理解を進めて、妥協し合うのです。明石さんがカンボジアで推進されたことです。『世界中に只一人でも不幸な人が残っているうちは、個人の幸福はあり得ない』と云う宮沢賢治の精神がその基礎です」と述べて「相互理解」の精神の意義を強調している。なぜ、こうした精神を、彼自らが学長を務めるはずの大学の設立準備過程において発揮しないのか、それどころか逆に「対話、協議に基づく妥協はありえない」とまで公に言明するのか理解に苦しむところである。


*1 地方独立行政法人法の制定に至る経緯については、吉川浩民・森源二「地方独立行政法人制度について(一)」地方自治六七○号一四頁以下参照。同法の内容については、右地方自治誌における連載の他、三野靖「地方独立行政法人制度と自治体行政の多様化」自治総研二九八号(二○○三年八月号)一頁以下。
*2 国立大学法人法については、合田哲雄・神山弘「国立大学法人法について」ジュリスト一二四五号一三○頁以下参照。
*3 本稿のこの部分は、公立大学協会の法制・目標・評価専門委員会に参加し、『公立大学法人に係る法制度の解説(中間報告)』二○○三年一一月を共同執筆した成果に依拠している。関係の諸氏にこの場を借りて謝意を表したい。
*4 都立の大学には、東京都立大学、都立科学技術大学、都立保健科学大学、都立短期大学の四大学があり、それぞれ、東京都八王子市、日野市、荒川区、昭島市と中央区に位置している。
*5 このような手法は、地方公社の例に倣ったものであるとのことである。吉川・森・前掲論文二一頁参照。
*6 参照、人見剛「公立大学と独立行政法人」自治総研二六六号(二○○○年一二月号)一頁以下、同 「公立大学における法人化問題」法の科学三二号一六一頁以下。
*7 現在、複数の大学を設置している自治体としては、福島県、東京都、岐阜県、京都府、奈良県、大阪府、愛知県、広島県、福岡県、長崎県、沖縄県、神戸市がある。
*8 複数の自治体が組合を設立して大学を運営している例として、釧路公立大学を設置している釧路公立大学事務組合、公立はこだて未来大学を設置している函館圏公立大学広域連合、青森公立大学を設置している青森地域広域事務組合、宮崎公立大学を設置している宮崎公立大学事務組合の四つがある。
*9 憲法二三条の趣旨を踏まえて、新大学の学長予定者について現四大学教員による何らかの信任手続が必要であるとするものとして、米津孝司「公立大学の独立行政法人化と大学自治??都立四大学の再編・統合と地方独立行政法人法をめぐる憲法問題」季刊教育法一四○号五二頁。
*10 例えば、茂木俊彦総長のインタビュー「自由闊達な話し合いこそが大前提」世界二○○三年一二月号一二○頁以下、村上義男『東京都の「教育改革」??石原都政でいま、何が起こっているか』岩波ブックレット六一三号、二○○四年、東京都立大学・短期大学教職員組合・新首都圏ネットワーク編『都立大学はどうなる』花伝社、二 ○○四年、山下正廣「石原都政のファッショ的手法による都立4大学の『廃止』をめぐる危機」科学七四巻四号四六七頁以下、東京都立大学化学専攻院生会ほか「都立大生から見た都立大『改革』」科学七四巻四号四七二頁以下、米津孝司「東京都立大学『改革』の問題点」法学セミナー二○○四年三月号五二頁以下、川合康「都立新大学問題??何が起こっているのか」世界二○○四年七月号二○○頁以下、東京都立大学経済学グループ有志「都立新大学構想の評価と経済学者たちの選択」世界二○○四年七月号二○九頁以下。なお、首都大学東京の認可申請は、就任承諾書の提出を拒む教員が二五名現れたことにより七月の早期認可を得ることができなかった。マスコミは、このことだけを捉えて新大学への就任拒否者数を報道しているが、昨年八月の大学改革の転換以降、都立四大学を去り、あるいは新大学への就任を早期に拒んだ教員が少なからずおり(筆者もその一人である)、そうした教員の総計は、四大学で一○○名程度にはなるはずである。この問題について都立大学の人文・法・経の三学部を対象に詳しい分析をした労作として首大非就任者の会「二五名だけが『首大』への就任拒否をしたわけではない??都立大学文系三学部における人材流出の実態」がある。この論考は、クビダイ・ドットコムというサイト(http://www.kubidai.com/ )において公表されている。
*11 人見剛「東京都による大学『改革』の法的問題点」法律時報七六巻三号七四頁以下。
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