東京都による大学破壊を歴史に刻む
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 日本経済新聞 2004 年10月14日朝刊より引用

来年4月に首都大学東京に統合される東京都立大学は13日,世界的な研究拠点づくりを支援する文部科学省の「21世紀COEプログラム」に選ばれた同大経済学部大学院の研究について,来年度からの事業継続を断念すると同省に申し入れた。研究チームの教員の大半が首都大への参加を拒否しており,研究を継続できなくなったと判断した。

2002年度から始まった同プログラムは,各大学が世界水準と誇る「看板研究」として計274件が採択されているが,通常5年間の事業期間の途中で中止されるのは今回が初めて。

 
「クビ大COE」はなぜ阻止されねばならなかったのか
東京都立大学経済学部 戸田裕之
2004.10.25
 

2003年7月,近代経済学グループ*1が文部科学省21世紀COEプログラムの一拠点に採択されたことの前提には,当時公式に計画されていた「新都立大学」と現在の都立大学との間に十分な継続性が存在するであろうという当然の見通しがあった。ところが,その直後の8月,東京都はそれまでの公式計画とはまったく異なる大学「改革」構想を発表した。この構想に基づく新大学なるものが東京都立大学とは完全に異質の「大学」であることは,「首都大学東京」(以下「首大」と略称)の姿が東京都によって具体化されていくその後の過程で明白になった。

新奇なことと価値あることはむろん同義ではない。「実学」「地場の利益」の掛け声のもと,「一地方」東京に直接の利益をもたらすことのみを追求しようとするのが,この首大の理念である。他方,学問一般の発展に対する基礎的な貢献については,一切その価値を認めようとしない。すなわち,首大は,人類の公共財としての学術知識の発展に寄与するという大学本来の使命を放棄し,他者の成し遂げた基礎的研究の成果に寄生するだけの存在として構想されているのである。

もし仮に東京が世界の「一流都市」のひとつとして認知されたいと望むのであれば,そのような貧しい心性を露呈することに益があろうはずもない。また,首大構想は,過去における東京都自らの公的資金投入の成果である都立大学の学問的資産を適切に評価し継承することを拒絶する。それらの学問的資産が将来に亙って生み出すはずの「投資収益」を無条件に放棄しているのである。目先の「利益」にとらわれて長期的視野を欠く,実に狭隘な発想というほかない。

私を含めて近代経済学グループ構成員の多くは,このような首大への就任を微塵も望まない。実際,首大構想が姿を現した昨年度のうちに,早くも16名中3名が抗議の意思のもとに他大学への転出を決意している*2。都立大学経済COEはそこに属する研究者の人的構成を前提として採択されたものである。事業推進者の大半が首大へ移行しない以上,「世界的な研究教育拠点 (COE)としての継続的な活動」を目指すこの事業が速やかに中止されねばならないことは当然である。COE採択の根拠となった諸条件をもはや満たすことのない組織に対して,国の公的補助金を投入し続けるような浪費が行われてはならない。

ましてや首大がCOE事業を引き継ぐことなどあってはならない。上述のように,東京都は都立大学が築いた学問的資産を適切に評価し継承することを放棄した。その設置者によって設立される首大が,まさにそのような評価を経て採択されたCOE事業を継承する資格を持たないことは明らかである。また,21世紀COEプログラムの目的は,首大の矮小な自己中心主義とはまったく相容れないものである。「持続可能な世界的研究教育拠点」の形成事業をまかされるのは,現在世代だけでなく将来世代に対しても便益を生み出す公共財としての学問の発展に貢献しようという高い志を持つ大学でなければならない。

このように,都立大学経済COE事業を今後も継続することには一片の正統性も存在しない。それにもかかわらず,さまざまな思惑と打算から,組織の見せかけの継続性を取り繕い,事業継続正当化のための理由を捻出し,首大へのCOE 移行を企てる動きが過去何ヶ月かの間に見られた。今回の「COE辞退」は,受動的・消極的な判断の産物などではなく,そのような動きに抗する多くの努力と断固たる意志をもって実現した「クビ大COEの阻止」である。真摯に学問に取り組む現在と将来の研究者すべてに向けて,このことを最後に明らかにしておきたい。


*1 日本では,歴史的経緯から世界標準の経済学を「近代経済学」と呼ぶ。
*2 都立大学経済COEの研究主題は,「ゲーム理論的制度設計の観点から金融市場の課題を分析する」ことであった。転出を決めた3名中2名はゲーム理論分野の研究者である。つまり,核となる研究者から流出が始まったのである。(もちろん,彼らの判断は研究者として当然であり,より良い研究環境でその実力を発揮できることは,社会厚生上も望ましい。) 世界中のまっとうな研究者たちによって,首大が今後どのような存在と見なされることになるか(既に見なされているか)を示唆する象徴的な事例といえよう。
都立大の風景
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